東京高等裁判所 昭和42年(ネ)232号・昭42年(ネ)249号 判決
そこで第一審原告の本件賃料増額請求の効果の限度について検討する。借地法第一二条の趣旨からみて、増額されたと認めるべき賃料額は、客観的な適正賃料額と賃貸借当事者間の既定賃料額の両面を勘案して判断せられるべきであると考えられる。
(一) 原審における鑑定の結果(鑑定人深田敬一郎)によると、昭和四〇年五月一日における本件土地の更地価格は九万円、これを基準とした新規賃貸の場合の適正賃料額は、権利金六一、六〇〇円を授受するものとして月額一四〇円、継続賃貸の場合の改定適正賃料額は月額七〇円(以上いずれも坪当り)と鑑定され、その算出方式は、更地価格から借地権価格(いわゆる建付地価格を更地価格の九八%とし、その七割)を控除したいわゆる底地価格に適正利潤率年六分を乗じ、これに公課及び管理費を加えたもので、一応相当と認められ、但し右にいわゆる継続賃貸の場合を新規賃貸の場合の半額にみるのは必ずしも明確な基準によるものとは思われないが、要するに既定賃料を勘案し、諸種の要因から適宜調整した額と考えられる。
もつとも原審証人宮下正一郎の証言とこれにより成立の真正の認められる甲第六号証(宮下作成の鑑定報告書)によれば、前記のいわゆる継続賃貸の場合でも借地権者はすでに有価値の借地権を有し、その価格は既定賃料額及び残存借地期間との関係から具体的に割出すべきで、更地価格の何割として借地権価格を定めた上新規賃貸の賃料をまず求めこれを調整して継続賃貸の場合の改訂賃料をきめるのは合理的でないとし、右宮下のいう方式で算出した前同期における本件土地の改訂適正賃料は月額坪当り一四五円であるとする(但し更地価格を坪当り七七、〇〇〇円と評価する。)。この考え方も一面の合理性はあるようであるが、借地権価格の定め方が独自のものであり、次に述べるように既定賃料をそのまま一の基準として増額の幅を限定する必要性からみると、本件改訂賃料としては相当ではないと考えられるから、右証言及び書証は採用しない。
(二) そこで既定賃料坪当り月額二五円を基準とし、地価の上昇にともなう調整(スライド)方式をとつて算出すると、本件賃貸借締結の昭和三二年四月当時の本件土地の更地価格は明確ではないが、原審証人松田金三郎の証言とこれにより成立の真正の認められる甲第八号証の二を総合すれば、本件土地付近の土地の当時の相場が坪四万円前後であると認められるから(反証はない。)、本件土地はその位置、形状からいつて坪二三、八〇〇円前後であると認められる(前記甲第六号証による本件土地近隣の良好地と本件土地との評価比率、七割マイナス一五%による。)ところが昭和四〇年五月当時の本件土地の更地価格は前記のとおり坪九万円とも七七、〇〇〇円とも評価されているので、その上昇率は三・二三倍から三・七八倍位と認められる。また近隣土地の右期間の上昇率は、前記甲第八号証の二、甲第六号証及び鑑定の結果を照し合わせれば、坪四万円程度から一〇万円ないし一三万円程度に上昇し、二・五倍ないし三・二五倍位であると認められる。右上昇率からみれば、本件賃料が八年間一度も増額されなかつたことからいつて、既定賃料坪当り月額二五円を基準とすると、月額八〇円強から九四円強(近隣土地の上昇率によれば六二円強から八一円強)程度が相当賃料として算出される。
(三) 以上のとおりで、前記(一)(二)の要因をあわせ考え、また原審証人宮下の証言と鑑定の結果により認められる、本件近隣土地では昭和四〇年当時坪一〇万円位の権利金を授受して賃料月額四〇円から七〇円位が一般であるとの事情も勘案し、本件土地の昭和四〇年五月一日における増額賃料は坪当り月額八〇円と認めるのが相当である(なお本件の場合、権利金は〔証拠〕を総合すれば、他の土地を含め四〇〇坪で一〇〇万円が授受されたと認められ、右額は一般の権利金に比べ少額にすぎるようであるが、いずれにせよ第一審被告は右権利金と前記賃料を対価として借地権を取得しているわけであるから、その既定の事実は尊重されるべく、権利金が少ないからといつて賃料の上げ幅を大きく認めるのは相当でなく、賃貸人の地位を承継した第一審原告との間でも同様である。)。
したがつて、当事者間の本件土地賃料は昭和四〇年五月一日以降坪当り月額八〇円、合計一六、一九〇円四〇銭に増額されたものと認められるから、第一審原告の賃料額確認の請求はその限度で理由があるが、その余は理由がない。
(近藤 小堀 藤井)